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「ペットの住まいと旅」 | ||||||||||||||
第12回 ペット法学会 学術大会 2009年 シンポジウム 「公共交通機関におけるペット移動に対する制約と裁判例に見る移動上の問題点」 1 国内での移動 人が国内において自由に移動できるように、ペットの移動に関しても特段の制限はない。例えば、ペットをケースに入れ手で持ち徒歩又はマイカーやマイクルーザーを利用して移動すれば、日本の北から南まで移動することに制限は全くないはずである。 ところが、ペットと一緒に旅に出るために公共交通機関である列車・バスやタクシーを利用するとき、更に遠くへ移動するため船や飛行機に乗るときとなると状況が異なる。欧米では、買主が、列車や船舶にペットを同伴させている光景をよく見かける、しかし、わが国では、そこまで自由には扱われていないのが現状だ。ペットが公共交通機関に同乗するには様々な規制がある。もっとも、身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬)の場合は原則として、公共交通機関へ飼主と同乗することが認められている(身体障害者補助犬法第8条)。 ペットの飼い主からすれば、規制はできるだけ無いほうが良い。しかし、他方でペットに対するアレルギーを持っていたり、嫌悪感を抱く乗客に対して迷惑をかけないようにする配慮も必要である。糞尿の問題、毛の離散の問題、鳴き声の問題やペット同士の喧嘩・咬傷のおそれもあり、また、ペットが直接人に対し噛み付いたり引っ掻いたりするトラブルも生じかねない。飼い主と他の乗客の要望のバランスをとりつつ、各公共機関はその調整を図っている。 具体的にどの様な規制があるか、そもそも乗せることができるか否か、乗せられるペットの種類・大きさはどうか、乗せるときはどのようなサイズ・材質のケース(ケージ)に入れる必要があるか、重量制限はあるか、無料か有料かなどは、各公共交通機関により規制が異なる。事前に各交通機関に詳しい内容を問い合わせることが必要だ。以下簡潔に規制の内容を示す。 (1) 列車の場合 JR東日本の旅客営業規則の第2編「旅客営業」第10章「手回り品」第309条「有料手回り品及び普通手回り品料金」の第2項によると「旅客は、小犬・猫・はと又はこれらに類する小動物(猛獣及びへびの類を除く。)であつて、次の各号に該当するものは、前項の規定に準じて当社の承諾を受け、普通手回り品料金を支払って車船内に持ち込むことができる @
長さ70センチメートル以内、最小の立方形の長さ、幅及び高さの和が、90センチメートル程度の容器に収納したもので、かつ、他の旅客に危害を及ぼし、又は迷惑をかけるおそれがないと認められるもの A
容器に収納した重量が10キログラム以内のもの」 と定めている。また同条第3項により、旅客の1回の乗車船ごとの、普通手回り品料金は、1個につき270円となっている(平成19年3月18日現在)。 他の鉄道会社でもほぼ同様の規定を定めているようだ。但し、大きさに関しては「膝の上に乗る大きさのケース&バッグ」と大まかな定めをしている会社が多い。また、JR東日本と同様に猛獣や蛇の類は同乗することができないとされている。手荷物料については、関東の私鉄の多くは無料としているが、関西では有料のところが多い。 (2) バスの場合 バスの場合は、主に「膝の上に乗る大きさのケース&バッグ」と大きさを定め、重量に対する規制が無く、無料として比較的寛大に定めている会社が多い。しかし、夜行バスでは、安眠を妨害する恐れがあるためか、ペットを同乗することは難しい。 (3) 飛行機の場合 一般的に、ケースに入れれば受託手荷物として運送を引き受けてもらえる。 例えば、ANAの国内旅客運送約款 第37条「愛玩動物」と題された条項では、 「1.旅客に同伴される愛玩動物について会社は受託手荷物として運送を引き受けます。ここで言う愛玩動物とは、飼い馴らされた小犬・猫・小鳥等をいいます。 2.前項に述べた愛玩動物については、第34条にいう無料手荷物許容量の適用を受けず、旅客は愛玩動物およびその容器の全重量に対し別に定める料金(4000円前後が多い)を支払わなければなりません。」 と規定されている。 ケースの材質、個数、大きさ及び料金については各航空会社により規制が異なる。ウサギやハムスターなどの動物の場合、歯が強いことを考慮して、前面が金網で覆われたケージに限定する例もある。身体障害者補助犬などを除いて、機内への持ち込みまたは連れ込みを断るところが多い。しかし、例えばユナイテッド航空やノースウエスト航空のようにペットを客室内へ持ち込むことを一定の条件の下で認めている航空会社もある。ところで、昆虫や金魚の類は、機内への持込が可能とされているようだ。ペットを荷物室に預ける際は、飛行中は様子をうかがいに行くことができないので、飛行時間に対応した十分な餌と水分を事前に与えておくことが必要となる。 短頭犬種(ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグなど)については、他の犬種と比較して高温多湿に弱く気道が狭いために、高気温の状況下において興奮による呼吸障害に伴う熱中症を発症するなど体調に変調をきたすおそれがあるとの理由から、搭乗を拒否することがある。 平成21年7月14日から、米国でペットエアウェイズという会社(本社フロリダ)が、ペット専用の旅客機の運行を開始したようである。取扱は犬と猫に限り、15分ごとにペットアテンデントが機内を見回るとのことである。 (4) 一般のタクシーの場合 道路運送法(13条)および旅客自動車運送事業等運輸規則(52条)により、身体障害者補助犬およびこれと同等の能力を有すると認められる犬並びに愛玩用の小動物以外の動物を伴う場合は、乗車を拒否することができることになっている。例えば、ペットが運転手に飛び掛り、運転の邪魔をしたり、大型犬がほえて運転手を驚かせることも考えられる。ペットを伴いタクシーに乗車する際には、運転手に同乗の可否を確認する必要ことが望ましい。 (5) ペットタクシー ペットを輸送することを目的とした、ペットタクシーというサービス業がある。ペットだけを運搬することが前提で、動物病院への搬送で付添い人が必要な場合などを除き、飼い主を乗せることができない。 (6) 船舶の場合 船舶の場合は、各会社により扱いがずいぶん異なっている。客席への同乗はほとんどの会社で認めていない。会社によっては、ペットルームやドッグハウスと呼ばれる特別の施設を設けて、ケージに入れることを前提に預かるところがある。その場合も、ケージの大きさ及び餌や水を与える時間帯に制限がある。マイカーなどを利用してフェリーに乗る際には、車内残留を認める会社もあれば禁止する会社もある。車の置かれている場所には、空調施設がなくペットに対して酷であるともいえる。また、車を置いてある区域には船の走行中は危険なので立ち入いることができないとしている会社もある。 いずれにせよ、わが国でペットと共に甲板で潮風を浴びることは難しそうだ。 欧米と異なり、公共交通機関においてペットに関する規制を厳しくせざるを得ない理由の一つに、飼い主のしつけが不十分でることが考えられる。無駄吠えをしないように、人や他のペットに絶対に噛み付かないように、糞尿に対する適切な対策を講じるように徹底させれば、近い将来公共交通機関にペット共に乗り景色を眺めながら旅をすることが実現するのではないだろうか。 2 わが国と外国との間の移動に対する制約 (1) ペットを連れて海外旅行や引越しをする場合の規制 犬を連れて日本を出国するためには、動物検疫所において出国前に狂犬病(犬の場合は狂犬病とレプトスピラ症)についての検査を受けなければならない(狂犬病予防法第7条など)。動物検疫所へ事前に連絡をして詳しい手続を調べておく必要がある。海外旅行先の輸入の条件も事前に調べておく必要がある。詳しくは、大使館や相手国の検疫当局へ問い合わせてみなければならない。更に、日本に帰国する際に必要となる書類も事前に用意すべきだ。 狂犬病予防法は、猫その他の政令で狂犬病を人に感染あせるおそれが高いものとして定める動物(あらいぐま、きつね、スカンク、同法施行令第1条)の輸出についても検疫が必要だとしている(同法第7条)。 (2) 海外からペットを連れて帰国する場合の規制 条約の規制により、そもそも相手国が輸出しない、わが国が輸入を認めないこともありうる。更に、輸入が認められるとしても、犬や猫などの場合は検疫に関する手続きが必要であり(狂犬病予防法第7条、違反すると30万円以下の罰金同法26条第1項)、また、実際に輸送してくれる航空会社などの運航規則にも従う必要がある。これらのことに関し事前に十分な調査をする必要もある。 ワシントン条約による規制もある。日本も「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」いわゆるワシントン条約を昭和55年に批准した。その結果、ワシントン条約の付属書に掲げられた絶滅のおそれのあるペットを輸入するには、輸出国が発行する許可書を取得することが必要となる。厳重な要件を満たしたうえでの許可がなければ輸入は出来ない。慎重に調査する必要がある。 そのほかの輸入規制として、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律の第15条は、国内希少野生動物の輸入を禁止している。違反して輸入すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることがある(同法58条第1項)。 鳥に関しては、米国、ロシア、オーストラリア及び中国との間で締結している二国間渡り鳥等保護条約及び協定(渡り鳥条約)の規制も働く。 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(特定外来生物法)に違反して、輸入した場合は1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(法人の場合は更に重い両罰規定がある同法36条)に処せられることがある(同法33条第3項)。 更に、家畜伝染病予防法による輸入規制もある(同法第36以下)。 参考資料 身体障害者補助犬法 (公共交通機関における身体障害者補助犬の同伴)
第八条
公共交通事業者等(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律
(平成十八年法律第九十一号)第二条第四号
に規定する公共交通事業者等をいう。以下同じ。)は、その管理する旅客施設(同条第五号
に規定する旅客施設をいう。以下同じ。)及び旅客の運送を行うためその事業の用に供する車両等(車両、自動車、船舶及び航空機をいう。以下同じ。)を身体障害者が利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない。ただし、身体障害者補助犬の同伴により当該旅客施設若しくは当該車両等に著しい損害が発生し、又はこれらを利用する者が著しい損害を受けるおそれがある場合その他のやむを得ない理由がある場合は、この限りでない。
第2 裁判例に見るペットの移動上の問題点 ペット(競走馬を含む)の移動に関する裁判例としては、以下の5つのものをあげることができる。これらは大きく2つの事例に分類できる。入国に際しての検疫に関する事例と乗物に乗り移動中に生じた事故の事例である。 1 入国に際しての検疫に関する事例 さいたま地方裁判所平成19年4月27日[1] 犬を本邦に入国させようとしたところ空港の施設に係留されたことが狂犬病予防法7条2項に基づく規則に反しているとして起こした国家賠償請求を否定した事例。 事案の概要 原告は、平成16年12月4日、成田空港から本件犬を連れて日本へ入国しようとした。しかし、成田空港の家畜防疫官は、本件犬につき、輸入検査申請時に原告が提出した中華人民共和国政府機関発行の証明書などによれば犬等の輸出入検疫規則附則4条に該当せず、本件規則4条1項の定めに該当するため180日間の係留検査が必要であるとして、本件犬を直ちに入国させることを認めなかった。そこで、犬の飼い主が家畜防疫官には実質的な審査権限はなく、係留を解かなかった点が違法だとして国賠を請求した。 判決要旨 家畜防疫官の審査権について、狂犬病予防の観点から是認できない事情があるという合理的疑いが生じた場合には、さらに審査を行い、狂犬病予防上安全であるか否かの判断をすることができるとし、実質的審査権を肯定した。その上で、犬の年齢の判断(生後4ないし7か月で生えるとされる後臼歯が生えていないことなど根拠とした)や、偽造された疑いもあり「輸出国政府機関の発行する証明書」による年齢の証明がされていないと判断したことなどから、本件犬の係留を解かなかったことは違法ではないとした。 この裁判例の意義 狂犬病予防法のための予防注射は、生後10ヶ月未満だと効果が薄いことが判明し、そのことを受けて、平成16年10月に、犬の入国に際し、狂犬病が撲滅したとして指定を受けている国以外の国から犬を入国させる場合は生後10ヶ月を超えているか否かで係留期間に差を設けることに改正された。しかし、例えば国内で犬を販売するとしたら、10ヶ月経たないもっと小さくて可愛いうちに売りたいと考える業者がいることも事実である。証明書を偽造してまで早く入国させたいと考える業者もいるかもしれない。このようなことが予想される中で、たとえ10ヶ月を越えると証明する輸出国政府機関の発行する証明書があったとしても、実質的に判断して、10ヶ月を超えていないと判断される場合には係留を解き飼い主に引き渡すことを拒絶した家畜防疫官の判断を正当とした判例である。狂犬病の進入を入国時に食い止める必要の高さからして妥当な判決といえる。 参考資料 犬等の輸出入検疫規則
抜粋 (平成十一年十月一日農林水産省令第六十八号) 最終改正:平成二〇年一〇月一〇日農林水産省令第六五号 第四条
家畜防疫官は、前二条の規定による検疫のため、次の表に掲げる区分に従い、検疫に係る犬等を相当下欄に掲げる期間(以下「係留期間」という。)動物検疫所に係留しなければならない。ただし、第八条第一項の規定により検疫を行った場合において、当該検疫に係る犬等の係留期間が十二時間以内であって家畜防疫官が必要と認める時間であり、かつ、その犬等につき家畜防疫官が狂犬病にかかっているおそれがなく、かつ、かかるおそれもないと認めたときは、この限りでない。
附 則 (平成一六年一〇月六日農林水産省令第七五号) 抄 第一条
この省令は、平成十六年十一月六日(以下「施行日」という。)から施行する。
第四条
平成十七年六月六日までの間に入港し、又は着陸する船舶又は航空機に搭載される犬等のうち、指定地域から輸入される犬等、輸出の際生産の日から十箇月を経過していることを証明する輸出国政府機関の発行する証明書が添付されている犬又は猫、輸出国政府機関の発行する証明書により平成十七年六月六日までの間に生産の日から十箇月を経過することが確認され、かつ、本邦に輸出された後生産の日から十箇月を経過する日までの間動物検疫所に係留されている犬又は猫及び試験研究用の犬又は猫についての新規則第四条第一項及び同条第四項の規定の適用については、なお従前の例によることができる。 2 乗物に乗り移動中に生じた事故の事例 この事例に関しては、4つの裁判例がある。古い順に紹介する。 (1)自動車で犬を輸送する最中に犬が暑さで死亡した事例 東京地方裁判所昭和45年7月13日[2] 犬を輸送する場合の注意義務に関する基準を示し、犬を輸送中に死亡させたことで慰謝料含め55万円の賠償が認められた事例 事案の概要 原告はシェルティ(シェットランド・シープドッグ、4歳11ヶ月)を飼育し、畜犬の繁殖や訓練を業務目的とする会社である被告Aに交配を依頼した。Aの従業員である被告Bは、七月中旬(気温32.3度)の午後1時過ぎ、当該犬を原告方から引き取ってライトバン型自動車(トヨタパブリカバン)の後部荷物室の段ボール箱の中に乗せ、両側の窓を開けて、Aの下へ運搬した。その途中午後6時ころ、犬が日射病にかかり死亡するに至った。そこで、原告が被告ABに損害賠償請求をした。 判決要旨 シェルティのような長毛種は暑さに弱く、暑い季節に車両で運搬するのは特に危険で、やむをえない場合には朝夕の涼しい場合を選ぶのが常識とされているので、犬を預り管理し運搬することに従事する者としては、運搬中における疾病の発生を未然に防止する注意義務があり、被告Bはその注意を充分になさなかったと認定した。そして、損害額については、本件犬が各賞を受賞していることを考慮して50万円の損害額とし、慰謝料額を5万円と認めた。 この裁判例の意義 熱中症に弱い犬を夏季期間に運送する場合は、気温の上がる日中を避ける、運送中絶えず様子をうかがうなどの配慮が必要であり、運送者の不注意を認めた裁判例として適切である。お盆のときに帰郷するときなど、高速道路などでの渋滞に巻き込まれ、自動車内の気温が上昇することも考えられる。ペットの身の安全を守る立場にある人として、ペットを乗り物に乗せるときは、その健康状態および環境に十分に気をつけなければならない。 (2) トラックで輸送中の馬が心不全で死亡した事例 名古屋地方裁判所昭和61年4月30日[3] 輸送中の競走馬が心不全により急死したことについて、運送人に債務不履行がないとされた事例 事案の概要 原告は、代理人である牧場を通して、被告との間で所有する競走馬を北海道から愛知県まで運送する旨の運送契約を締結した。しかし、その運送途中で競走馬が転倒して死亡するに至ったため、債務不履行に基づいて損害賠償請求を行った。原告は転倒による脳震盪が原因と争った。死後、血液・血清検査と尿検査が行われた。 判決要旨 本件馬には頭部を打撲したような跡はなかったとし、結局、本件馬は輸送中に麻痺性筋色素血病になり、起立保持ができず、結果的に急性腎機能不全をきたし、急性心不全を招いたこと、また、運転手らは物音を聞いた後にパーキングエリアに車を止めて獣医師を探し出すなどの行動に出ており、その不注意により馬を死亡させたものではないとし、請求を認めなかった。 この裁判例の意義 犬が日射病で死亡した先の事案とは異なり、運送側の不注意が否定された。本裁判例のほうが、移動中のペットの病死の事案に関する一般的な事例になると考えられる。 車などで移動中、ペット自身が体調に変化を生じたときは、ペットを預かっている者としては、異変に気付いた後に直ちに獣医師の往診を要請するなどの適切な対応をすれば責任を問われないことになる。ペットを預ける飼い主は、自動車などで長時間移動させる前に、移動による疲労やストレスに耐えうるかどうかを判断する必要に迫られよう。 (3) 米国から本邦へ飛行機で移動する際に、預けたペットが死亡していた事例 東京地方裁判所平成19年4月23日[4] ロサンゼルス国際空港から成田空港までの犬一頭の運送契約につき、熱中症が原因と思われる死亡事故につき、損害賠償請求を認めなかった事例 事案の概要 原告は、被告との間でゴールデン・レトリバーの「ストーム号」の運送契約を締結したが、ロサンゼルス空港出発後、成田国際空港に到着した際、ストーム号は死亡していた。検疫解剖の結果、死因は心不全とされた。被告は、貨物室の温度管理、貨物の搭載量の調節、ケージの搭載場所の選択につき管理義務を怠った債務不履行があるなどとして、1000万円の損害賠償を請求した。 判決要旨 本件の航空機において、犬が預けられていた第2及び第3コンパートメントにおける、貨物の占有率は低かったとし、さらに貨物室の室温が20〜22度に保たれていたことを認定した上、預けられていたほかの犬は熱中症にならなかったことを考慮し、被告は輸送について必要な管理義務を果たしていたとして請求を棄却した。 この裁判例の意義 ペットは、ケージに入れられ、客室とは異なる貨物室に入れられる。そこでの気温や気圧は客室と同様に管理されているが、飼い主がその様子をうかがい知ることは全くできない。約10何時間のフライトの後に死亡しているペットと対面した飼い主の精神的苦痛は想像に余りある。犬や猫も人と同様に客室に同乗できるようになれば、飼い主が異変に気付き応急手当をすることもできるようになる。更に、乗客の中に獣医師が乗り合わせていることを期待したい。 この裁判例においても、運送側の責任が否定された。これらの3つの裁判例を見ると、運送環境が悪質で死亡した場合できない限り、飼い主が勝つことは難しそうであるといえる。 この裁判の中で、被告はモントリオール条約(国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約、平成15年10月29日条約第6号、同年11月4日施行)の免責条項(17条2項但書き)や責任の制限の条項(22条2項)を主張しているが、判決文ではそもそも注意義務違反が認められなかったので、判断されていない。 (4) ペットとマイカーでドライブ中に起きた事件 名古屋高裁平成20年9月30日判決[5] 交通事故によりペットである犬が負傷した場合において、治療費、慰謝料等を損害として認めつつ、犬用シートベルトなどの措置を講じていなかったことを理由に過失相殺を認めた事例。後遺症を負った犬の飼い主2人に対しそれぞれ金20万円の賠償を認めた。 事案の概要 原告の運転する普通乗用自動車に、被告の運転する大型貨物自動車が追突し、原告らとともに、右後部座席に体を横に伏せたような姿勢で寝かせていたペットのラブラドール・レトリバーも後足麻痺の傷害を追い車椅子を使用するようになった。そこで、治療費等を請求した。 判決要旨 愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが不法行為によって負傷した場合の治療費等については、生命を持つ動物の性質上、必ずしも当該動物の時価相当額に限られるとするべきではなく、当面の治療や、その生命の確保、維持に必要不可欠なものについては、時価相当額を念頭に置いた上で、社会通念上、相当と認められる限度において、不法行為との間に因果関係のある損害に当たるものと解するのが相当とした。そして、治療費11万円や車椅子製作料2万5千円の請求を認めた。さらに、原告らに子供がいないことを考慮して、原告2人につき合計40万円の慰謝料を認めた。ただ、動物を乗せて自動車を運転する者としては、犬用シートベルトを装着するなどの義務があるとして、1割について過失相殺した。 この裁判例の意義 この判決は、高裁判決であるが、第一審の判決における認容額ははるかに高かった。原告ら2人の慰謝料額の合計は80万円となっていた。控訴審になって認容額が大幅に下がったことは、ペットの飼い主からすると残念なことである。しかし、高等裁判所の判断として、時価賠償の制限の撤廃、ペット負傷時においても慰謝料請求が可能であるとの道を開き確立したこと、ペット傷害の事例で比較的高額の慰謝料を認めたことには大きな意義があるといえる。 まとめ これらの裁判例をみて思うことは、ペットが交通機関において移動する場合は、飼い主と離れ離れになることもあり、移動に長時間を要することも多く、移動途中に体調を崩す、特に熱中症、日射病にかかる可能性も高いことから、飼い主は高度の注意を払わなければならないことになるということである。長時間の移動に耐えうる健康状態であるか否か、事前に獣医師に確認することが必然となろう。また、ペットの飼い主は、輸送におけるペットの負担を理解し、危険を冒してまで移動させる必要があるのか否かを再検討すべきであろう。 以上 [1] LLI/DB 06260128 [2] 判時615号35頁 [3] 判時1211号104頁、判タ610号119頁 [4] LLI/DB 06231861 [5] LLI/DB 06320524
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